歯ぎしり・食いしばり(ブラキシズム)とは?

歯ぎしり(ブラキシズム)や食いしばりとは、上下の歯を無意識のうちに強く噛みしめたり、こすり合わせたりする動作のことを指します。
これらは主に睡眠中に起こりますが、日中でもパソコン作業やスマートフォン操作、車の運転中など、集中しているときや、ストレスがかかった時に無意識に発生することがあります。
一時的なものなら問題にならないこともありますが、習慣化され、長期間続くと歯や歯ぐき、顎にさまざまな悪影響を及ぼすため、注意が必要です。
近年では、ストレス社会や生活習慣の変化により、幅広い年齢層の方が歯ぎしり・食いしばりに悩まされていると言われています。
実際に、自覚がないまま症状が進行しているケースも多く、早期発見・早期対応が重要です。
歯ぎしり・食いしばりの主な原因
歯ぎしり・食いしばりの発生には、さまざまな要因が関与しています。
ストレスや精神的緊張
現代人にとって最も大きな要因の一つです。
仕事や人間関係、環境の変化など、日常生活に潜むストレスが、無意識のうちに筋肉を緊張させ、歯ぎしり・食いしばりを引き起こします。
噛み合わせ(咬合)の乱れ
上下の歯の接触バランスが悪い場合、無意識に歯に負担がかかり、歯ぎしりや食いしばりが発生しやすくなります。
睡眠の質の低下
浅い睡眠、睡眠時無呼吸症候群など、睡眠障害が歯ぎしりのリスクを高めることがわかっています。
「良質な眠り」が確保できていないことも、歯ぎしり・食いしばりを誘発する要因の一つです。
習慣化された癖(TCH)
「TCH(Tooth Contacting Habit)」とは、日中、意識せず上下の歯を接触させ続けてしまう癖のことを指します。
通常、リラックスしているときは上下の歯はわずかに離れているのが正常です。
この癖があると、常に筋肉が緊張状態となり、食いしばりのリスクが高まります。
歯ぎしり・食いしばりによる悪影響
歯ぎしり・食いしばりが習慣化すると、次のような問題が生じます。
- 歯の摩耗やすり減り
- 歯の亀裂や破折
- 知覚過敏症状(冷たいものや甘いものにしみる)
- 詰め物・被せ物の破損や脱落
- 咀嚼筋の痛みや疲労感
- 頭痛、首や肩のこり
そして、もっとも見過ごせないのが、顎関節への過剰な負担です。
歯ぎしり・食いしばりは
顎関節に大きな負担をかけます

歯ぎしりや食いしばりによって、通常の咀嚼運動以上の強い力が顎の関節にかかり続けます。
この状態が慢性的に続くと、関節周囲の筋肉や靭帯、関節内部の構造にダメージが蓄積し、痛みや機能障害を引き起こすリスクが高まります。
これが、いわゆる「顎関節症」へと進行する可能性をはらんでいるのです。
顎関節症とは?
顎関節症とは、顎の関節や周囲の筋肉に異常が生じることで、次のような症状が現れる疾患です。
【主な症状】
- 顎の痛みやだるさ
- 口を開けるとカクカク、ゴリゴリと音がする
- 口を大きく開けられない、開けると痛い
- 食事中に顎が疲れやすい
- 会話中に顎に違和感を覚える
軽度であれば自然に改善することもありますが、症状が進行すると、関節内部に構造的な変形が起こることもあるため、注意が必要です。
歯ぎしり・食いしばりが招く
「見えないリスク」
歯ぎしり・食いしばりを放置していると、自覚症状のない間にも次第にダメージが蓄積し、
- 歯がもろくなる
- 顎関節が変形する
- 顎周囲の筋肉が硬直し、慢性的な痛みが出る
といった、深刻な結果につながる恐れがあります。
早い段階での対応が、こうしたトラブルを防ぐためには不可欠です。
当院で行う治療方法
当院では、歯ぎしり・食いしばりによる負担を軽減し、顎関節を守るため、次の治療を行っています。
マウスピース療法(ナイトガード)
就寝時にマウスピースを装着することで、歯と顎関節への負担を緩和します。
歯ぎしりの力を分散し、歯のすり減りや関節へのダメージを防ぎます。
咬合調整(噛み合わせ調整)
噛み合わせの不良が認められる場合、咬合調整を行い、力のバランスを整えます。
場合によっては矯正治療をご提案することもあります。
TCH是正指導
日中の無意識の食いしばり癖(TCH)に対し、正しい舌や顎のポジションを意識するトレーニングを指導します。
ご自身で意識できるようサポートします。
ボトックス治療(筋肉の緊張緩和)
ボトックス治療とは、筋肉の緊張を一時的に和らげることを目的とした治療法です。
主に使用されるのは、「ボツリヌストキシン」という成分で、過剰に収縮している筋肉の動きを緩めて、柔らかくする働きがあります。
歯ぎしり・食いしばりに対するボトックス治療では、主に「咬筋(こうきん)」という噛むための筋肉にボトックスを注射します。
これにより、
- 筋肉の過緊張を和らげる
- 噛みしめる力を適度に抑える
ことができ、歯や顎関節への負担を軽減することが期待できます。
ボトックス治療の主な効果
- 歯ぎしり・食いしばりの緩和
- 顎関節への負担軽減
- 朝起きたときの顎のだるさや痛みの改善
- 歯の摩耗、破折、詰め物脱落のリスク低減
- 咀嚼筋(咬筋)の肥大(エラ張り)の改善
咬筋の過剰な働きをやさしく抑えることで、無意識のうちにかかる強い噛みしめの力を弱め、症状の悪化を防ぎます。
※顎関節症の直接治療ではありませんが、過剰な食いしばりのコントロールに効果的です。
効果が現れるまでの目安
ボトックス注射後、
- 効果が現れ始めるのは約3日~1週間後
- 最大効果は2~4週間後に実感されることが多い
と言われています。
効果の持続期間は3〜6か月程度です。
その後、筋肉の動きが元に戻るため、必要に応じて定期的な再注射を行います。
メリット
- メスを使わない治療である
- 比較的短時間で施術が完了する
- 翌日から通常の生活が可能
- 症状改善だけでなく、エラ張りが気になる方にも美容的効果が期待できる
デメリット・注意点
- 効果は永久ではない(数か月ごとに再施術が必要)
- 施術後、一時的に違和感を感じることがある
- 稀に、表情筋に影響を与える可能性がある(注射部位により対応)
- 妊娠中・授乳中・妊活中の方は施術できない
施術前にはしっかりとご説明を行い、ご納得いただいた上で治療を進めますのでご安心ください。
早めの対応が、
未来の健康を守ります
歯ぎしりや食いしばりは、放置してしまうと将来的に大きなトラブルを招くことがあります。
今は症状が軽くても、積み重なる負担が10年後、20年後の歯や顎の健康を左右することになるのです。
当院では、患者様一人ひとりに合わせた治療プランをご提案し、日常生活でのセルフケア方法も含めてサポートいたします。
よくあるご質問(FAQ)
歯ぎしりをしているか自分ではわかりません。診断できますか?
はい。歯の摩耗の状態、顎関節の動き、筋肉の緊張状態などを総合的に診察し、歯ぎしり・食いしばりの有無を判断します。
マウスピースは一生使い続ける必要がありますか?
多くの場合、症状の改善に応じて使用頻度や方法を見直していきます。定期的なフォローアップを行いながら、最適な管理を行います。
ボトックス治療は安全ですか?
咬筋に対するボトックス注射は、医療機関で適切に行えば安全性が高く、日常生活への支障はほとんどありません。施術前にしっかりご説明いたしますのでご安心ください。
歯ぎしり・食いしばりから
未来の健康を守るために

わずかな違和感も、体からの大切なサインです。
「大丈夫だろう」と自己判断せず、気になる症状があればどうぞお気軽にご相談ください。
当院は、皆さまが安心して噛める、快適な生活を取り戻すために、全力でサポートいたします。